自衛官の再就職|民間企業における昇給の考え方とは?
仕事を長く続けるうえで、給与が少しずつ上がっていくことと、どれくらいの年収になるのかを想定しておくことが将来の見通しを立てるうえで重要なポイントです。
自衛官であれば毎年号俸が上がる事による昇給がありますので、勤続年数ごとに給与も上がり、優秀な成績であればさらなる給与アップも可能です。
また、基本的に号俸が下がる事もありません。
一方、民間企業の場合は、毎年必ず給与が上がる昇給制度を採用している所は少なく、会社の業績や勤務態度、業務実績によって都度決定していきますので、昇給額は高くも低くもなります。
このように、民間企業と自衛隊では昇給についての仕組みが違います。
自衛官を退職する前に、民間企業の昇給の考え方について応募前に理解を深めておきましょう。
1.民間企業の定期昇給・ベースアップとは
2.臨時昇給とは
3.昇給の有無・金額は何で決められているのか
4.求人票に定期昇給ありと書いてあれば必ず昇給するのか
5.求人票に書いてある昇給金額とは
6.民間企業では昇給の他、各種手当で給与を上げていく会社もある
7.昇給はあくまで、業績・評価に左右されるという事を知っておく
8.昇給額や回数だけで判断せず、長期的な視点で考える
9.まとめ
1.民間企業の定期昇給・ベースアップとは
民間企業で給与が上がる方法として代表的なものに、
【定期昇給】と【ベースアップ】の2種類があります。
【定期昇給】(個人に対する昇給機会)
定期昇給とは、毎年決まった時期に年齢や勤続年数、成績に応じて基本給が昇給する制度を指します。
全社員が同じ金額昇給するのではなく、人事評価や給与体系に応じてそれぞれ金額が決定します。
定期昇給は基本的に勤続年数が長い社員が恩恵を受けやすい昇給制度と言えます。
自衛隊のように、真面目に仕事をこなしていれば給与が少しずつ上がっていくため、
・今後の年収の見通しが立てやすい
・長く働き続ける事で給与が上がっていくので安心感がある
というメリットがあります。
【ベースアップ】(業績・物価水準に応じた給与額の調整)
ベースアップとは、会社業績・物価水準などを勘案し、給与額の調整として昇給を行う事を指しています。
労働者代表と経営者間での交渉によって決められる事が多く、労働組合がある大企業などでは、労働組合が中心となってベースアップ金額の交渉をしています。
会社によってベースアップの実施方法は異なりますが、会社業績や物価水準、世間の給与相場などから算定した金額がベースアップとして昇給されます。
大企業であれば、労働組合の働きかけにより数年連続でベースアップする場合もありますが、中小企業の場合は会社業績・世間の給与相場を勘案し、ベースアップによって給与の調整を行う必要があると、経営者が判断した場合に実施されます。
あくまで給与の調整としての意味合いが強い為、定期的に必ず行われる訳ではないという事が分かります。
2.臨時昇給とは
定期昇給やベースアップ以外にも、臨時昇給による給与アップも考えられます。
定期昇給のように、給与アップのチャンスが定期的にある訳ではありませんが、
・業務成績が非常に良い
・昇進や昇格があった
・任される業務の幅が大きく広がった
という場合に、個別に昇給が行われる場合があります。
3.昇給の有無・金額は何で決められているのか
自衛官として働いてきた方は、毎年ある程度の昇給がある為、イメージしにくいかもしれませんが、実は定期昇給・ベースアップの実施や金額について、法律などでルールは定められていません。
昇給に関わる取り決めは、会社の【就業規則】で定められており、それぞれの会社の就業規則によって定められているルールに則って、昇給を実施します。
例えば、就業規則に「昇給は年1回実施する事がある」と記載があれば、昇給のタイミングは基本的に年1~2回です。
昇給については、あくまで会社の就業規則に応じて決定される事がわかります。
4.求人票に定期昇給ありと書いてあれば必ず昇給するのか
求人票には、昇給制度の有無や年間の昇給回数について記載がありますが、昇給制度がある会社であっても、必ず昇給が実施されるとは限りません。
昇給の回数や金額については上記で説明したように【就業規則】に則って決定されます。
例えば就業規則への記載例として、よくある例が
・年〇回、必ず昇給する
・年〇回、業務成績等勘案の上、昇給する事がある
という2種類です。
「必ず昇給する」という旨が記載されている場合は、業績などに関わらず必ず昇給が実施されます。
一方、「昇給する事がある」と記載されている場合は、会社の業績や成績に応じて、昇給が無い事も考えられます。
これはあくまで、【昇給の機会がある】という考え方です。
このように求人票に【昇給あり】と記載されていたとしても、昇給の機会があるだけで、昇給が約束されている訳では無い事が分かります。
※現在多くの会社では、昇給について「昇給する事がある」という記載がされています。
昇給について民間企業では、会社の業績や社員の成績などを考慮したうえで支給される。という考えが一般的なので、業務範囲が狭いという場合や、会社の業績が悪い場合には、昇給が実施されないという事も考えられます。
※現在、日本の85.1%の会社が昇給制度を整えており、ほとんどの会社に昇給制度があると言えます。
参考:厚生労働省:平成 30 年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況
5.求人票に書いてある昇給金額とは
求人票には具体的な昇給金額が記載されており、応募前に昇給の金額について確認する事が出来ます。
ですが、ここで注意すべきポイントは求人票に記載されている昇給金額は【過去の昇給実績】であり、入社後に必ずその金額昇給するという訳ではありません。
仮に入社後に会社の業績が悪くなってしまった場合や、求められている仕事の成果が上げられないという事であれば、昇給額の減少や昇給無しという事も考えられます。
昨年は業績が良かった為に昇給額が高かったが、今年は業績が悪化したので昇給金額が減るという事も起こりえます。
・昇給金額を左右するスキルや技術
・自分と同じ程度のスキル・年齢の方の昇給について
・昇給している社員の特徴や働きぶり
などを、会社の担当者に確認しておくと、入社後の給与の増え方についてイメージしやすくなるでしょう。
6.民間企業では昇給の他、手当で給与を上げていく会社もある
会社によっては昇給だけでなく、資格の取得などによる各種手当の支給によって給与を上げる仕事も存在します。
手当が手厚い事で有名なものは、警備業界やIT業界です。
警備業界やIT業界にも昇給による給与アップはもちろんありますが、仕事で役に立つ資格を取得し、資格取得に関する各種手当によって給与のアップが見込める仕事です。
警備・IT業界などでは、資格を取得する事で任される業務の幅が広がる事から、会社としても資格取得を推奨しており、資格取得者に対して各種手当を支給して還元しています。
各種手当による給与のアップは、あくまで自身の努力によるものですが、自身の努力次第で給与を上げていく事が出来ます。
※昇給の項目で説明したように、各種手当の額についても【就業規則】であらかじめ定められています。
参考ページ:再就職を迎える自衛官必見!|資格の選び方 3ステップ
参考ページ:民間企業と自衛隊を比較|仕事で必要な資格の取得について
7.昇給はあくまで、業績・評価に左右されるという事を知っておく
これまで説明したように、民間企業の昇給については会社の業績や個人の成績に左右されます。
不況などで業績が悪くなってしまった場合は、昇給額の減少、または昇給が無いという事も考えられます。
自衛官のように、「ある程度真面目にやっていれば給与が毎年上がるだろう」、という考えを持ったまま再就職してしまうと、民間企業での昇給額の増減に一喜一憂してしまい、定年まで長く働こうという意欲が減ってしまう事にもなりかねません。
民間企業に再就職するうえで、毎年必ず一定額昇給するという考えは持たない方が良いでしょう。
8.昇給額や回数だけで判断せず、長期的な視点で考える
再就職先を検討する時に、給与や待遇などの確認は欠かせませんが、
単純に「昇給があるから」「昇給の金額が高いから」という理由で応募する会社を決めてしまうことは控えておいた方が良いでしょう。
これまでに説明したように、求人票に記載されている、
昇給ありという項目は、【昇給の機会がある】という事を表しており、
昇給額は【過去の昇給実績】の金額を表しています。
これらの情報は、あくまで参考程度と考えておき、求人票に記載されている昇給以外にも、各種手当の支給制度なども込みで将来的な給与を考え、応募する会社を選ぶとよいでしょう。
参考ページ:自衛官の再就職|民間企業の残業の基礎知識と応募前のチェックポイント
参考ページ:自衛官の再就職|年間休日125日?製造業の休日の特徴とは
任期制隊員の方は、さらに将来的に長期的な視点を持っておく
自衛官を定年退職する方であれば、
・退職金や若年給付金が支払われる
・定年まで5年程度である
という事から、昇給の有無をそこまで気にする方少なく、職場環境などの働きやすさを重視する方が多いと言えます。
ですが、任期制隊員の場合定年まで30年以上あり、今後お金が必要になってくる一人暮らしや結婚などのイベントが控えています。
任期制隊員から民間企業に再就職する場合は、さらに長期的な視点で、
・入社して定年まで、どのように給与が上がっていくのか
・20代で入社した方の5年後、10年後以降の給与例
などを確認しておき、入社したあとの昇給額や、給与のイメージをある程度把握しておくと良いでしょう。
現職の自衛官の場合は、会社に聞きにくい事であっても、援護担当の方が企業に聞いてくれるので、相談のうえ活用すると良いでしょう。
参考ページ:再就職方法の比較|自衛隊の基地援護室を活用するメリットとは
参考ページ:任期満了金をどう使うべきか【民間企業に転職する場合】
参考ページ:任期制隊員から民間企業に移るか、自衛隊に残るか|任期制隊員の進路
9.まとめ
自衛官は公務員であることから、真面目に働いてさえいれば、勤続年数ごとに給与が昇給し、よほどの事が無ければ毎年昇給があります。
ですが、民間企業の場合は、昇給についてのルールは会社の就業規則によって定められており、昇給のルールは会社ごとに大きく違いがあります。
また、自分が真面目に働いていたとしても、業績の悪化などにより昇給額が減少する事もあり、自衛官の時に比べ、昇給の額が増減する事が予想されます。
このように、民間企業と自衛隊の昇給についての考え方は大きく違いますので、これらの違いを事前に知ったうえで、昇給実績や回数だけに注目せず、
・長く働き続ける事が出来るか
・給与は上がっていくのか
という事も考えて再就職活動をする事で、入社後のミスマッチを防ぐことが出来ると言えます。