自衛官の再就職|「年収が下がるのはちょっと…」と考える人の3つのリスク
自衛官の定年退職を控えた方は、再就職活動の時に援護室に行って、求人票を見る機会が増えます。
給与額や待遇などは求人票によって差がありますが、ほとんどの場合、現職の時に比べて給与が下がることになるのではないでしょうか。
「月給20万円程度の求人には応募したくない」
「給与が低いなら働きたくない」
「自衛官定年後に給与の高い求人を探すつもり」
という方も一部いらっしゃると思いますが、
・給与額にこだわった再就職活動をする方
・無職の期間があってもよいと考える方
にはリスクがあります。
ここでは、
・給与にこだわる方に訪れるリスク
・無職の期間の支出増について
・仕事探しの考え方
について、紹介します。
1.自衛官の定年と年金支給までの間について
2.再就職先の給与額とは
3.給与にこだわる方に訪れる問題(再就職活動中)
4.再就職先が決まらなかった方は支出が増える
5.無職よりもサラリーマンは社会保険・税金の面で優遇されている
6.若年給付金で給与の減少分を補填出来る
7.給与だけでなく、定年まで長く働き続ける事の出来る仕事を探すべき
8.まとめ
1.自衛官の定年と年金支給までの間について
自衛官の定年年齢は、2020年1月の時点では、
1佐で56歳
2佐~1曹で55歳
2~3曹で53歳
となっています。
自衛官も会社員も同じですが、一般的に定年前の50代の頃は給与額が高くなります。
60~65歳定年が多い民間企業のサラリーマンに比べると、自衛官は5~10年ほど早く現役を引退してしまう為、給与の高い50代の期間が短いです。
自衛隊を退職してからも、子供の教育費や住宅ローンの支払いなどの出費がある方もいらっしゃるかと思います。
月々の出費を計算した上で、出来るだけ収入を減らしたくないと考えている方も多いため、再就職先の仕事では現職の時と同額程度の給与を希望する方が多いです。
2.再就職先の給与額とは
退職間近である曹長の場合、定年前は手当を含めると月給40万円程度支給となります。
再就職後の給与については、一般的に現職の時の給与の50~70%になると言われており、多くの方が年収300万円~400万円の間、月給に換算すると月20~25万円程度になると考えられます。
曹長で月給40万円程度支給されている方あっても、再就職先の給与相場は、月給20~25万円前後になります。
給与額が現職の時と同水準という仕事ももちろんありますが、
・現職でのスキルをそのまま生かせる仕事に再就職する
・成果によって給与アップが望める営業職に再就職する
・顧問や管理職として再就職する
・難関資格や、広い人脈を持っており、それを活かす事が出来る仕事に再就職する
という場合であり、実際には誰もが給与水準を維持した再就職が出来る訳ではありません。
3.給与にこだわる方に訪れる問題(再就職活動中)
現職の時の給与額を落としたくないと考え、給与額の高い求人を探す方もいらっしゃいますが、給与の高い求人は、
・そもそも採用枠が少ない
・企業からの期待値が高い
・特殊なスキル、人脈などが求められている
などのことから、すぐに内定を得る事は難しい状況です。
求人の選択肢がどんどん減っていく
再就職活動を数か月続けた方であっても、中には、
「求人票は給与額しかチェックしない」
「希望の求人が出るまで待つ」
「給与額の低い仕事なら再就職しない方が良い」
と考えて、求人票の給与額だけをチェックして、詳細まで検討しない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
民間企業では退職自衛官の採用枠を、採用計画に基づいて決めている為、自衛官が入社出来る採用枠は時間を追うごとに少なくなっていきます。
最初は給与額の高い求人を中心に活動していた方も、再就職活動を進めるうちに、
・給与額の高い求人は、仕事の難易度が高い
・退職金が支給される
という状況を改めて考え、勤務地や休日・残業時間など、給与以外の条件も検討し、長く働ける仕事を探すようになります。
選択肢が狭くなった頃に、「定年退職まで時間が無くなってきた」と、希望の給与を20万円台などに下げたとしても、20万円台の年間休日や福利厚生などの待遇の良い求人は、早めに再就職活動をしている自衛官の方が既に内定を取っている、という事にもなりかねません。
結果として、給与が気になり積極的に再就職活動が出来ない方は、日を追うごとに選べる求人が減り、選択肢の幅が更に狭くなってしまいます。
最悪の場合、自衛官退職までに再就職が決まらないかもしれない
選択肢が狭くなってから再就職活動に本腰を入れたとしても、最悪の場合、退職日までに再就職先が決まらないという事がありえます。
この場合、援護から再就職支援を受けられなくなってしまいます。
また、自衛官定年までに仕事が決まらず無職になってしまった場合、社会保険の面であらゆる優遇が無くなってしまいます。
4.再就職先が決まらなかった方は支出が増える
再就職先が決まらない場合、「月々の収入がゼロになるだけ」ではありません。
下記で紹介するように、月々の支出額が増えるという問題がおこります。
・健康保険の自己負担額が増える
・健康保険の扶養が無くなり支出が増える
・配偶者の厚生年金の扶養が無くなり支出が増える
・退職金の受け取りで、翌年の住民税が高い
健康保険の自己負担額が増える
現職の時の健康保険より、月々の健康保険料の負担が上がります。
今までの共済の健康保険は、保険料の半分を国が負担していました。
民間企業の場合も、健康保険の保険料の半分を企業が負担しています。
無職になってしまうと健康保険は、国民健康保険(保険料全額払い)へと切り替わります。
※任意継続として共済を2年間続ける方法もありますが、保険料は国民健康保険と同じ全額自己負担です。
民間企業にスムーズに再就職出来れば、健康保険の保険料は今まで通りの半額負担となりますが、無職になってしまうと、月々の保険料の支払い額が増加します。
参考ページ:【5分で分かる】自衛官が再就職の前に知っておくべき社会保険の話
健康保険の扶養が無くなり支出が増える
公務員の共済保険や民間企業の健康保険では、妻や子供などの家族を扶養に入れる事が出来ます。
【※扶養とは】
働く方1名分の保険料で、扶養家族全員の医療費がカバーされる制度です。
ですが、無職の方が加入する国民健康保険には扶養という概念が無く、家族全員の人数分に応じた保険料を支払う必要があります。
お住まいの市町村により保険料は変わり、保険料の上限もありますが、現職の時に比べると月々の保険料は増加します。
参考ページ:【5分で分かる】自衛官が再就職の前に知っておくべき社会保険の話
配偶者の厚生年金の扶養が無くなり支出が増える
現職の時には厚生年金に加入しているので、配偶者(満20~60歳未満で年間収入130万円未満・専業主婦など)の方は働く方の厚生年金の扶養に入る事が出来ました。
健康保険の扶養のように、働く方1名分の保険料で配偶者の年金がカバーされるので、配偶者分の保険料の支払いはありません。
ですが、無職になってしまうと配偶者を扶養に入れる事の出来る厚生年金から、国民年金へと切り替わります。
国民年金は収入の有無に関わらず、日本に住む20~60歳未満の方は加入する必要がありますので、今まで配偶者を厚生年金の扶養に入れていた方は、扶養が無くなります。
なので、配偶者分の国民年金保険料を新たに支払う事になります。
※支払いが出来ない等の状況により保険料の納付の免除を受ける申請もありますが、保険料を支払わない分、老後に支給される年金の額も減少します。
【共済年金とは】
主に公務員を対象とした年金として、平成27年10月以前に存在していましたが、現在は民間企業のサラリーマンが加入していた厚生年金へと統合されました。
参考ページ:自衛官の年金・基礎知識|共済年金や厚生年金って何?
退職金の受け取りで、翌年の住民税が高い
現職の時は、給与から自動的にお住まいの市町村の住民税が引かれています。
住民税は前年の課税所得の10%程度の金額を次の年に支払う必要があります。
住民税の計算には、曹長クラスで2,000万円程度、佐官クラスで3,000万円程度支給される退職金も算入されますので、翌年の住民税の支払額は大幅に増加します。
再就職をした場合でも、退職した翌年の住民税は高いですが、無職の場合は収入ゼロの状態で前年と同じ住民税を支払う為、貯金を切り崩して支払うという事が考えられます。
※課税所得:所得に応じた控除額(配偶者控除・障害者控除・生命保険料控除など)を引いた金額
参考ページ:自衛官の退職金・若年給付金とは?|退職金の失敗例を紹介
自衛官の退職した後に再就職しない場合、
・健康保険の全額負担で支出が増える
・健康保険の扶養が無くなり支出が増える
・配偶者の厚生年金の扶養が無くなり支出が増える
・退職金の受け取りで、翌年の住民税が高い
という事柄により、今までに比べて月々の支出額が数万円以上増えるという事が分かります。
※保険料は収入やお住まいの地域により差がありますので、個人の状況により支出額が大幅に変化します。
5.無職よりもサラリーマンは社会保険・税金の面で優遇されている
ご存じの通り自衛官は公務員なので、社会保険や家族を扶養に入れる事が出来るという点で、自営業・フリーランス・無職の方に比べると優遇されています。
自衛官を定年退職後に無職になってしまうと、
・健康保険の全額負担で支出が増える
・健康保険の扶養が無くなり支出が増える
・配偶者の厚生年金の扶養が無くなり支出が増える
という問題がありますが、
再就職して民間企業のサラリーマンになると、厚生年金、協会けんぽ、健康保険組合などへ加入しますので、現職の時と同じように、家族を扶養に入れる事が出来ます。
また、健康保険の保険料は半額を企業が支払いますので、現職の時と同じように全額負担とはなりません。
参考ページ:【5分で分かる】自衛官が再就職の前に知っておくべき社会保険の話
民間企業の正社員や契約社員として働き、毎月一定の収入さえあれば、たとえ収入が減ったとしても、社会保険の保険料を現職の時と同じレベルの出費に抑える事が可能であり、今までの同じレベルの社会保険のサポートを受ける事が可能です。
6.若年給付金で給与の減少分を補填出来る
民間企業へ再就職すると現職の時に比べて給与が減る事が多いですが、自衛隊には下がった分の給与の補填として若年給付金が支給されます。
若年給付金は、曹クラスの自衛官で1,300~1,500万円程度の金額となります。
例えば1500万円の若年給付金が支給される場合、55歳~60歳までの年月で割り補填として考えると、毎月の月給は、
【再就職先の月給】+【25万円】
となりますので、再就職先の月給が20万円とした場合、補填分と合わせて45万円分の給与をもらっている事と同じと、考える事が出来ます。
若年給付金を補填として計画的に使用出来れば、再就職先の月給が20万円程度だとしても、現職の時の変わらない月給40万円台の生活水準を維持する事が出来ると言えます。
若年給付金は60歳以降の老後の為の資金ではなく、再就職した後の給与減を補填する意味合いとして支給されています。
このように、自衛官には若年給付金があるので、再就職での給与の減少をある程度カバーしていると考えて、再就職先の給与水準を決めていくと良いでしょう。
参考ページ:退職金・若年給付金で老後は安心?|自衛官定年後に減る収入
7.給与だけでなく、定年まで長く働き続ける事の出来る仕事を探すべき
再就職での収入減は若年給付金である程度カバー出来るので、再就職では【定年まで無理なく続けられる仕事か】という点を重視して再就職活動をするべきと言えます。
・勤務地
・通勤時間
・年間休日
・福利厚生
・教育制度
・自衛官OBの在籍状況
・50代の社員数
という点をチェックし、未経験であっても無理なく働けるか、仕事を丁寧に教えてくれるかなど、働きやすい環境かどうかを、よく調べる事で、入社後に満足度の高い再就職が出来ると言えます。
8.まとめ
自衛隊は再就職の時に、現職の時と比べて給与が下がってしまう場合が多いですが、若年給付金という、減った給与分の補填があります。
給与額にこだわった再就職活動も間違いではありませんが、
・補填分の支給がある事を改めて考える
・サラリーマンの社会保険は無職に比べて優遇されている
という点を改めて考える事で、給与以外の条件や待遇など、定年まで仕事を続ける上での重要な事柄にも目が行き、長く働き続ける事の出来る仕事を見つける事が出来ると言えます。